睦月五日、日付が変わってすぐ、の携帯がメールの受信を告げた。
友人達からのメールにまぎれて、一通のグリーティングカードが届いていた。
『 Dear君
お誕生日おめでとう。
君がこの世に生をうけて、出会えた奇跡を私にも祝わせて欲しい。
・・・今夜、迎えにいくよ。
K・Yamanami 』
それは間違いなく倶楽部五稜郭の山南敬介からのもので、は思わずメールを開いたのが家族や知り合いの前でなくて良かった・・・と、ほんのりと赤くなった頬を意識しながらそう思った。
だが、落ち着いてみると、まず気になったのは『今夜』という言葉である。
今夜は倶楽部五稜郭は臨時休業だというのを先日訪れたときに聞いていたからだ。
そこで、の提案でいつもの四人で集まってささやかながらお祝いをしようという約束になっているのである。
そもそも、山南はの家も職場も知らないはずなのだ。頭の上に?マークを浮かべながらものんびりと一日を過ごしていた。
そして、達との約束の時間に間に合うようにと家を出て、駅までの道を歩いていると、聞きなれないクラクションが鳴った。
こんなところでは珍しい・・・何かと思って、が振り返ると、銀色のマークXに乗った山南が運転席から手を振っていた。
「や、山南さんっ!?」
驚いて立ち止まっているを尻目に、適当なところに車を止めると、降りてきた。も何がどうなっているのか分からないものの、とりあえずその車に近づいた。
「やぁ、君。約束どおり迎えに来たよ。まずは、お誕生日おめでとう」
そう微笑みながらゆうに一抱えはあるだろうカサブランカの花束を差し出した。
「わ・・・・・え?私が頂いちゃっても良いですか?」
そういって目を丸くしているに山南は小さく苦笑する。
「君に貰ってもられないのなら、この花達も萎れてしまうよ。どうか、受け取ってはくれないかい?」
そういって、にこりと笑みを浮かべる。
「あ、ありがとうございます!!・・・で、山南さん?どうしてここへ」
頬を染めて花を受け取りながらも、最初からずっと不思議だったことを口にする。
「ああ、君から聞いていたからね。私が迎えにきては迷惑だったかな?」
所在なげに微笑まれて、は慌てて首を横に振った。
「そんな、とんでもないです!ただ、どこに行くのかな・・・とか?」
「それは着くまでのお楽しみでどうかな?君も良く知っている場所だけどね」
何故か悪戯っぽい笑みを浮かべた山南を不思議そうに見ていると、手を差し出された。
「では、お手をどうぞ、姫」
「山南さん・・・ひ、姫って!?」
「ふふ、たまには容保公に倣って見ようかと思ったのだけれど、私には似合わないかな?」
そういいながら、花束を抱えるの手を引いて助手席にエスコートする。
普段と同じように楽しく会話を交わしているうちに、車が止まったのは、地下のとある駐車場。
◇ ◇
しかし、再び山南にエスコートされ、上った階段の先には見慣れた倶楽部五稜郭の扉。
ただ、の予想外だったのは『closed』のプレートのかかった扉がすんなり開いたこと。
そして、一歩踏み入れると、パンッ!といういくつかの軽い破裂音と共に降りかかる色テープがを出迎えた。
「お誕生日おめでとう!!」
「お誕生日おめでとうございます、さん!」
続いて、、の三人の声が届いた。
「おめでとう!これでさんもまた一つ素敵な女性になったってことだよね」
それに続くように藤堂が前に出てきて、が抱えていた花束をそっと取り上げると、テーブルへとエスコートした。
「めでたいな。こんな日に招いてもらえて余も嬉しく思うぞ」
そう言ったのは容保公だが、他の席にはお客の姿は見えず、いつもより隊士・・・もといほすと達の数が少ない。
「ええっ!?だって、そもそも今日はお休みなんじゃ・・・?」
驚いて目が点になっているにがにやりと笑みを浮かべた。
「やだなぁ、。土方さんが諾と言えばお店の貸切くらい♪」
「そうですよ。倶楽部五稜郭で困った時には土方さんにで、榎本さんにさんってv」
「・・・色々反論はあるけども。なにはともあれ、さんの誕生日ですからね、皆でお祝いしたいと思いまして。お話してみるとすんなり通りました」 土方さんはさんでは釣れませんので悪しからず
「みんな、ありがとうっ!!」
といっていると、の一歩後ろにいた榎本が出てきて言った。
「おめでとう、君。そして、ありがとう。今日この日にここを選んでもらえて我々も光栄だよ」
「さぁ、席へ。今夜は君が主役だよ」
そう言って、テーブルの中央へとエスコートしたのは勿論山南で。
その反対側には藤堂がちゃっかりと居場所をキープして待ち構えていた。
目の前のテーブルには料理がずらりと美味しそうな湯気を立てて用意されていた。
「ああ、着いたのか。おめでとう」
奥からそんな言葉と共に姿を現した土方の姿を見て、思わずは背筋を正した。
「あ、土方さん。こちらこそありがとうございます。お店を貸しきっちゃうなんて・・・」
「ああ、気にするな。それなりの代価は貰うからな・・・こいつから」
それとなく、土方から距離を取ろうとしていたはその腕を取られて引き寄せられて失敗した。
「なるほど!じゃあ、今日は存分にお世話になりますね」
「そうしてくれ」
それを見たはにっこりと笑うとそう言い、土方は土方での言葉に快く頷いた。
「ちょっと待ったーっ!何ですかそれっ!?」
「えぇ?だって・・・ねぇ?」
「そうそう、絶好のチャンスなんだから、土方さんの」
「さんも少しは自分に正直になって土方さんに甘えたら良いんだよ」
畳み掛けるように、、の三人が続ける。こういうときの連携は素晴らしい。
「無茶な。私は常に自分に正直だから!って、それよりもう離して下さいよ、土方さん」
「駄目だ。俺の頼みは聞いてくれるんだろう?」
「無駄に誤解を招くような発言を・・・!お仕事手伝うって言っただけじゃないですか!!」
「おやおや、君もだけれど、君もかなりの恥ずかしがり屋なんだね」
「や、山南さん?・・・私はそんなことないですよ」
「おや、そうかな?ふふ、じゃあ今夜は私にしっかり甘えてもらいたいね」
そんなこんなでいつもと変わらないやり取りが交わされていると、キッチンからワゴンを押して、島田と源さんがやってきた。
「は〜い、出来ましたよ〜。わしらからも・・・さんお誕生日おめでとう!!」
そう言ってワゴンの上にかけられていた布を取れば、そこには美味しそうなケーキ。ケーキの上に飾られたデコレーションプレートには『さん お誕生日おめでとう!!』とある。
そして、その横にはほど良く冷やされたシャンパンと、小さくタワーになったシャンパングラス。
「今夜は君のお祝いなんだから、遠慮なく楽しんでくれればいいからね」
そういって、山南はシャンパンの栓を抜くと手馴れた様子でグラスに注いでゆく。
その間に、榎本は一回り小さいハーフボトルを手にの横へと進み、話しかけた。
「君には、これを。今夜は私もお相伴に預からせていただこうと思うんだが、構わないかな?」
「ど、どうぞ・・・でも、良いんですか、榎本さんはお酒を召し上がれるんじゃ?」
そういって差し出されたのはノンアルコールのシャンパンで、はいつもながらにその心遣いに嬉しくなる。
「ふふ、ありがとう。だが、折角のお祝いの日に一人で違う飲み物と言うのも味気ないだろう?それに、今夜は君を送って行きたいしね」
軽くにウインクしながら、榎本はどこか楽しそうにコルクを抜き、と自分のグラスへとその中身を注ぐ。
「では、君の生まれた日に乾杯!」
全員にグラスが行き渡ったのを確認してから、山南がグラスを掲げる。普段なら、この前にシャンパン・コールがあるのだが、今日この場には不要だろう。
「乾杯っ!」と言う言葉と、グラスの触れ合う軽やかな音が響く。
やとからのプレゼントに続き、山南が内ポケットから取り出したのは、シルバーのリボンのかかった細長い箱。
「私からはこれを」
「え、でもさっき・・・」
「さっきの花束は五稜郭倶楽部から。こっちは私の個人的な気持だよ。受け取ってくれるかい?」
そう言われてしまっては嫌だとも言い切れず。結局、押し切られる形で受け取ることになった。それを真横で見ていた平助が口を尖らせながら続けた。
「あ、山南さんずるいなぁ・・・ハイ、じゃあ俺からもコレ。受け取ってよね」
思わぬ二人から貰ったプレゼントを抱えながら、困ったようにが訊く。
「開けてみて良いですか?」
承諾の言葉を得て、開けてみれば、とからのお祝いは眼鏡と『発明入門-発明から特許まで-』という本。
平助からの包みを開けてみれば、洒落た感じのストラップに、ひっそりとロケットがついているものだった。
開いてみれば、ちゃっかりと平助自身の写真が入れてあり、それを横から掠め見た山南はそれを取り上げた。
「・・・まったく、藤堂君にも困ったものだね。こういったものに何を入れるかは君の自由だろう」
そういいながら、何時の間にか平助の写真を取り出すと、脇に置いた。
「あーっ!?酷いなぁ、山南さん・・・さんは俺の写真でも良かったよね・・・?」
どこか上目づかいな平助にどきりとしながらも、反対側からの山南の視線に挟まれてうっ・・・と詰まっていた。
「ほらほら、それより大本命の山南さんのがまだじゃない、見せてよ」
と、いうの言葉に助かった!と思いながら、山南から貰った箱の包装を解くと・・・出てきたのは青玉をあしらったシンプルなシルバーのペンダント。
「ええっ!?こ、こんな高価な物受け取れませんっ!」
驚いて、返そうとするに、山南は困った顔をする。
「困ったな、気に入らなかったかい?」
「いえ、とんでもないです。でも、これを私なんかが受け取る訳にはいきません!!」
「そう言われてもね・・・返されても困ってしまうよ。これは私が君に着けて貰いたいという我侭で贈るものだからね」
「でも・・・限度ってものががあります」
「なら、こうしてはどうかな?」
そんなやり取りを二度ほど繰り返し、このままでは何時までたっても平行線を辿りそうな二人に榎本が口を挟んだ。
「君は向こう三ヶ月はここ来たら山南さんを指名すること、というのでは?そうすれば、君が金銭的な心配をするのであれば解決するよ」
「ああ、それはいい考えですね。勿論、その時はこれをつけてきてくれるね?」
の意見を抜きでとんとん拍子で話は進み決着をみた。ここまできては、ほすとという職業はこんなものだと諦めるしかないのだろう、とは自分を納得させた。
「・・・・・・わかりました、じゃあこれはありがたく受け取らせて頂きますね。でも、本当にこうやってお祝いしてくれるだけで充分嬉しいんですよ?」
「ああ、だけどね、君が良くても私の気持が充分じゃないんだ・・・受け取ってくれて、ありがとう」と
満面の笑顔でそう言われ、思わず顔が赤くなるのがわかり、はグラスに残っていたシャンパンをあおってってごまかした。
飲み物をとりに行くと山南が少し席を外していると、そっとが近づいてきた。
いつの間にか平助もの隣から離れ、山南とだけが最初の位置からほとんど動いてはいなかったらしい。
「そうそう。さん、知ってますか?男の人が女の人にアクセサリーを贈るのはその人の独占欲の表れだそうですよ」
良かったですね〜と、はこっそりと囁いてにやりと笑みを浮かべると、何事もなかったかのようにみんなの輪へと戻っていった。
さてさて、宴も酣。
用意していた料理やケーキに思う存分舌鼓を打ち、そろそろお開きかな・・・と言う頃。
帰る準備をしてたを不意に土方が止めた。
「おまえはこっちだ」
そう言って、土方が指差したのは奥の仕事部屋へと続く扉で、は怪訝な顔をする。
「は?」
「俺の仕事を手伝うんだろう?」
「何も今日でなくても・・・・・ああ、いえ。ハイ。分かりました」
ちらりと土方が見やった山南と容保を見て、榎本とだけではなく、彼らをそれぞれ二人きりにしようと言う意図なのに気づく。
「では、君は私が送って帰ろう。そういう約束だったしね」
何時の間にそんな約束を!?と、、二人は思ったが、は少し恥ずかしそうにうつむきながらもうなづいていた。
「は余と共に帰るであろう?」
そして、衝撃は続く。まだまだ続く。頑張れ殿。私は味方だ
「え?あの、容保さんはお酒を召し上がってるので・・・」
「使いの者を呼んであるから心配はいらぬ。無論、そのまま余の部屋に泊まっていけば良い。城よりは狭いが・・・問題なかろう。それとも・・・」
酔いも手伝って容保公ご乱心。もといノリノリである。今明かされる会津城での秘密。
「わっ、分かりました!お言葉に甘えますっっ」
と、思いきや、がそう答えたことで「最初から素直にそういえばよい」の一言で幕が引いた。
ちなみにこの一幕、酔っているとはいえ容保の膝の上で行われているのだから天晴れ、殿。
「それじゃあ、私が君を送っていこうね」
何時の間にかノンアルコールに切り替えていた山南が、有無を言わさぬ笑顔でそういう。
を挟んだ隣では平助が「ちぇー、山南さんばっかり美味しいトコ持って行くんだもんなー」といっているものの、あえて反論はしない。
そんなこんなで、おめでたいお祝いの時間はそろそろ終わりを告げていた。
◇ ◇
車に乗って、シートベルトを締め、が抱えた花束を見つめていると、隣でくすりと山南が苦笑いを浮かべた。
「それだけ喜んでもらえたなら何よりだよ。しかし、花ばかり愛でていられると私が困ってしまうんだけどね・・・」
そんなに少しだけ小さく溜息を付いた山南は、そっと頬に手を伸ばした。
「私にも、君と言う花を愛でる権利をくれないか?」
その言葉にどう答えたものかと固まっているを尻目に、山南はゆっくりと二人を隔てる空間を塞いだ。
・・・・・・to be continued (二人の夜はまだまだ続く)
〜感想〜
倶楽部五稜郭を読んで下さった匿名様から、こんな素敵な誕生日プレゼントを頂けるとは…
自分で書くと、絶対に山南さんは本気でかかってきませんので、
他社に書いて頂くのは新鮮でもあり、心臓にも悪かったです(笑)。
しかも、平助くんとVSモードになるとは…
平助くんの可愛さにもノックアウトされ、一人メール開いてオロオロしてました。
素敵なプレゼント、有難うございましたm(__)m